施設長の独り言
6話 高齢者虐待について思う
主任児童委員及び児童虐待対応地域協力員養成研修会に参加した(私は、微力ながら平成6年から主任児童委員の役を地域から依頼され引き受けている)。虐待相談は群馬県児童相談所受付で335件(平成14年度)とここ3年ほど300台を維持し平成5年に比べなんと30倍の多さである。全国では23738件(14年度)だそうだ。
今回の研修で高崎経済大学細井教授の講演は誠に的を得た目から鱗が落ちるほどのすばらしい内容であった。細井教授は、約束事として「悪者作りをしない。虐待する人のせいにしない。」ことを強調された。「虐待する親の気が知れない」とか「生まなければ良かったのに」とか「母親じゃあないよ」という言葉は虐待者を更に追いつめますます闇の世界に追いやるもので決して虐待防止にはつながらない。虐待しようと思って子どもを産む親はいない。又これらの言葉は子どもにとってもいたわりの言葉でも心を癒す言葉でもない。それはこどもにとっては虐待者であっても親であることに変わりはないからである。この約束を守らないままどんなに会議を開こうが、法律を作ったとしてもそれは何のお役にも立たないことを再度強調された。
私が職業としている高齢者介護の現場ではどうだろうか。昨年11月厚労省は虐待の定義として「身体的虐待」「心理的虐待」「性的虐待」「経済的虐待」「介護の放棄」の5つを定めた。過去に傷口をガムテープでぐるぐる巻きにされた高齢者がデイサービスに来たことがあった。最近では当施設のケアマネージャーに相談してきたケースもあった。このケースは自分が行っていることに罪悪感を感じ助けて欲しい相談であった。細井教授が言うとおり児童虐待の現場でも言えることだが、虐待防止ネットワークは監視の目になりやすく虐待者はこの監視の目をくぐり抜け寄って来ない。虐待者が相談に来れるネットワークにならねばならない。
一時「介護地獄」という言葉が流行したが、介護の現場ではまだこの言葉は生きている。いつ終わるとも知れない介護を妻や嫁という立場だけの理由で全て引き受けている現実はいたる所にある。つねりたくもなるし、ほっときたくもなる。少しは骨休みは必要だし、気晴らしも欲しい。全てを抱え込む必要はない。
介護保険は一人で抱え込む介護を国民全体で引き受けましょうと言う理念(国民の共同連帯)で始まったはずである。当施設所属のケアマネージャーにはこのことを意識したケアプランを作るよう言ってある。細井教授の講演を聴いた後には、虐待者のせいにするのではなく、介護の負担を軽減するプランを作成するよう伝えた。そして相談できるケアマネージャーになるよう研鑽を積むようにも伝えた。このような資質を持ったケアマネやサービス機関があちこちに出来ることが高齢者虐待の防止につながると思うからである。
平成16年2月27日 小林直行
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