施設長の独り言

  

 第17話 岡田耕一郎東北学院大学助教授の
  特老ホーム(多床室)有利理論検証

 私と同席し岡田助教授と意見交換を行った当施設の2人の介護職員の復命書に、「今までは他の施設がこういうことを行っているから私達の施設も行わなければならないと言った考えになり、出来ていない事は良くないことと思っていた…中略…ひとつのことに力を入れると他がおろそかになってしまう。」とある。私は特老ホームを初めて12年になるが、12年の間この2人と同様に、研修に行きその内容を施設で実施しなければ、と常に思ってきた。そしてこの3〜4年はユニットケアという科学的で合理的なケア理論なのかはなはだ疑問な理論に振り回されてきた。介護職員をうっとりさせ、引きつける響きを持つ『より添う介護』を合い言葉にして、40年以上の歴史を持つ多床室の従来型特老ホームをかき回しているユニットケアは本当に老人介護の救世主となりうるのかというのが、私を岡田助教授のケア管理理論に引き込ませた大きな理由である。これ以外にも第4回ユニットケア全国セミナーにおいて浅野前宮城県知事が「ユニットケアを実施するのに多くの職員が必要になりそれは際限がない。今後はこの問題をどうするか考える必要がある」と発言をしていることも理由の一つである。また今年度は思うような新規採用ができなく、更には少子化で若い人が少なくなっていく将来、介護職員をどう賄うかというのも大きな理由の一つである。
 これから述べることは岡田耕一郎『介護サービス組織としてのユニットケア施設の課題〜従来型特別養護老人ホームとの比較から〜』東北学院大学論集経済学第155号(2004年3月)を基にしたものである。特に下線が引かれている文章は岡田耕一郎氏記述であることを予め断っておく。
(1)比較的少人数の介護職員であっても、十分ではないにしろ、一定の安全性を確保しながら、サービスを安定して提供できる
 当施設は2階建ての2階部分1フロアに長期60名ショートステイ10名の合計70名の方が入居し、2グループ制を敷いている。部屋は個室が4、2人部屋が4で残り12室が4人部屋である。ショートステイは2人部屋が1、残り2部屋が4人部屋である。介護職員は常勤21名、夜勤のみのパート職員が週2回勤務、食堂周り勤務のパート職員が1名で週30時間勤務、清掃は1日4時間で1年間365日勤務の人材派遣に依頼し廊下・居室・トイレ・洗面所・手すりを実施している。看護師は常勤3名。洗濯業務は1日3時間勤務で週6日勤務のパート職員が2名。給食は全面委託。この体制で介護サービスを提供しているが、入浴日(月・水・木・土)は人手不足で、入浴専門のパート職員に来てもらっているが、入浴以外の入居者への対応が手薄になっている。今まで大きな事故は生じておらず、じょくそう者は無く、疥癬発病者もいない。レク・行事・外出等は入浴の無い火・金・日に行っている。欠勤等で職員がいない日にも最低限の介護サービスは提供している。
(2)日課表は多数の利用者に対して少数の介護職員集団が介護サービスを的確に提供することをねらいとしていたため、必然的にいくつかの限界を抱えていた。その一つが集団的介護あるいは画一的介護と呼ばれてきた介護方法である。
 当施設も開設当初(平成6年5月)から日課表を作成しこれに基づき日々の介護サービスを提供してきたが、ユニットケアに影響され入居者を2グループに分けた2年前から日課表がなくなった。この状態で新規採用職員はどう業務を覚えていくのか。約1ヶ月間指導役の職員に就き業務を覚えていく。当施設では2人一組で介護サービスを提供しているので、新人は相方から日々の業務を覚えていく。
 三大介護(食事介助、入浴介助、排泄介助)について当施設の現状を述べてみる。
 @食事介助
  食堂は1カ所で広い。開始時間は朝食が8時、昼食が12時、夕食が介助が必要な方とショートステイ帰宅組が5時でそれ以外は5時30分から食事になる。食事の形態は、普通食・きざみ食・極きざみ食・ミキサー食が用意され、極きざみ食やミキサー食ではムースゼリー状にして形良く提供している。選択食・行事食・イベント食も適時提供されている。食堂は8グループの席とカウンター席が用意され、介助が必要な人、自分で食べられる人を含めめいめい決まった席に着いて食べる。年々介助を必要とする入居者が増え、対応が困難になってきている。
 A入浴介助
  午後1時30分から4時までの間で毎日入浴が行われている。入居者は週2回入浴できる。月・木は男性と介助が必要な女性とショートステイ。水・土は女性のみ。日・火・金は特殊浴を必要とする人とショートステイ。日はショートステイとなっている。入浴の流れは、脱衣室まで誘導し服を脱がせてから浴室に行き頭と身体を洗い、浴槽に入り暖まり、脱衣室に連れてきて服を着せる。脱衣室を出て近くの洗面所で整容し、食堂に連れて行き水分補給する。この仕事を25人の入居者に行うので、流れ作業的になり浴室は戦場と化すのも納得する。
 B排泄介助
  介助の種類は、おむつ交換、トイレ誘導及びポータブルトイレ介助があり入居者の身体の状態に応じて個別に対応している。おむつ交換は1日4時30分、9、11、14、16、18、22時と決められ、これ以外に尿意や便意有る入居者には随時対応している。排泄介助の流れは、おむつ交換の場合建物の東西の端から必要なものが揃った台車を移動させながら各部屋ごとに行っていく。使用した紙おむつは箱に詰めゴミとして1階の処理室に運び、布おむつは厚いビニール袋に入れ処理室に運ぶと、業者が運んで行く。
(3)これまで従来型施設では、介護職員と利用者・家族との関わりが不十分であることが問題視されてきた。
 当施設では、入居契約時、主任相談員・主任・副主任介護職員・看護職員及び担当介護職員を入居者と家族に紹介している。ショートステイ入居者にはしていない。担当介護職員は入居者3人〜4人をケース担当として受け持ってケアプランを作成し、ケース会議には家族に出席するよう依頼し家族には平易な言葉で説明している。家族が出席できない場合は電話等で要望を聞いておく。また入居者の物品購入には担当介護職員が関わる。しかし、担当介護職員の技量が利用者や家族との関わりに影響するのは否めない。家族は、病気など医学的なことは看護職員に聞いている。相談員に家族が関わるケースとして多いのは、状態・日常生活の変化、家族の身上に変化があった時、利用料等金銭に関わること、苦情不満の訴え等である。
(4)介護サービスの質を保証する組織的仕組みとしては、@介護職員の日課表、A介護手順をまとめたマニュアル、B優れた管理職が少なくても現場を運営できる見守り協働システム、C各種の記録物の活用等が挙げられる。
 現在当施設にはA・Bグループ共に日課表はない。介護手順をまとめたマニュアルは食事・給食介助、入浴介助、排泄介助、ベッドメイキング、レクレーション、安全、防災、ショートステイと多岐にわたっている。新採用職員がこれらマニュアルを覚えるのは並大抵ではない。
 介護サービスの管理方法は、主任相談員1名、主任介護職員1名、副主任介護職員1名、リーダー介護職員1名がおり、副主任とリーダーはA・Bグループの長を務めている。主任相談員と主任介護職員は全体的な見守りを行っている。これらの職員の内1名は必ず出勤する体制を取っている。記録物としては、食事摂取記録表、排泄記録表、入浴記録表、バイタルチェック記録表等が有り、現在これら記録物をパソコン上で管理する体制へと移行中である。
 以上、岡田助教授が指摘した従来型特別養護老人ホームの特徴について当施設の現状を述べてきた。現場に携わっている訳ではないので詳細な現状把握が難しい面があったが、職員の聞き取りを行い現状を把握したつもりである。記述する内に当施設の問題点も明らかになってきた。その一つは入浴時に入浴しない入居者への対応手薄になる事であろう。また食事介助者が多くなっていることにも対応できていない。これではユニットケアの寄り添う介護に負けてしまう。職員の育成も課題である。これらの課題を解決できるならばユニットケア以上のケアを低コストで提供できる。最後に冒頭で上げた2人の復命書を引用する事で本稿を終了する。「サービスの質が低下しない組織体制を作るためにも、新人職員の指導の仕方はとても重要だと思いました。また職員が長く勤める体制作りも必要だと思いました。
 次回はユニットケアについて述べてみたいと思う。
 

               平成17年12月28日  小林 直行



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