施設長の独り言
第28話
社会福祉法人の使命について考えるNo2
不正請求や処分が下される前の事業所廃止など数々の疑惑に揺れているコムスンが、訪問介護や有料老人ホームなど主要4事業すべてを譲渡することになった。夜間対応訪問介護という採算がとれにくくかつホームヘルパー確保が難しい仕事に果敢に挑戦している頃のコムスンを知っている筆者としては複雑な思いである。グッドウイルの傘下に入るにあたって、当時の榎本コムスン社長は折口会長を随分買っていたことを思い出す。折口会長が変わったのかそれとも元々持っていたものを隠していただけなのか。
今回のコムスンの問題をみていて思うのは『法令遵守』と『事業の継続』である。事業者は法令を守らなければならいのは当然であるが、この法令に欠陥がある場合も『法は法である』ので守らなければならないが、度が過ぎた罰則や懲らしめるための罰則規定では事業者の意欲を著しく削ぐ。その条文は介護保険法第70条第2項第9号「指定の申請前5年以内に居宅サービス等に関し、不当または著しく不正な行為をした者であるとき」で、この条文によってコムスンは連座制を適用され来年3月一杯で多くのサービス事業所が更新の認可を受けることができなくなる。確かにコムスンは不当な手段によって介護報酬を得、不正行為によって事業所開設を行ったので更新できないのはやむを得ない。しかし、ほとんどの介護事業者は、昨年引き下げられた介護報酬でぎりぎりの運営を行っている。 当法人で行っている訪問介護事業は3700万円の収入に対し支出は3600万円。この数字だけを見ると100万円の黒字になるが、管理者も事務職員も給与の支給はない。更に家賃の負担もないのでかろうじて黒字を保っている。
もうひとつ当法人で運営している特別養護老人ホームの食費の問題を述べる。
食費は1日あたり1人につき1380円の収入を得られる。しかし、当施設では18年度は1514円かかっている。内訳は食材料費に934円、調理人件費に580円である。134円の赤字を施設で補填している。食材料費をこれ以上落とすと質と量が保証できないし、人件費を落とせば調理が出来ない。厚労省は、老人は麦飯を食えとでも言うのか。1514円には光熱水費や調理器具・食器費は含まれていない。馬鹿にしたものである。
こんな状況にも関わらず、なぜ介護事業を行うのか、と良く聞かれるし、また自問もしてみる。
7月に起きた新潟県中越沖地震や台風被害者をみると、圧倒的に高齢者や乳幼児(災害弱者)が被災される例が多い。これら災害弱者のセーフテイネット(安全網)をどうするかという議論は災害が起こるたびに出される。セーフテイネットの役割は弱者の最後の拠り所である。このセーフテイネットこそ特別養護老人ホームや児童福祉施設等の社会福祉施設だと思う。
作家の渡辺淳一氏はある週刊誌で「弱者の居場所」という内容でコラムを書いている。勝つ人がいれば負ける人もいる、収入が多い人がいれば少ない人もいるのがこの世の常である。負けた人は努力が足りなかったから、自業自得だからといって、これらの人々の居場所をほっといて良いものだろうか。否。また、日経新聞、大機小機欄において担当筆者は、日本国政府及び地方公共団体の天文学的借金のためある時を境に、大増税と社会保障給付の大幅カットを見越して企業の業績回復にも関わらず、株価の低迷が続いていると述べている。この論に従うならば、政府の社会保障給付の肩代わりを企業が求められ、法定福利費や厚生経費が膨らむことを暗示している。全ての企業がこの負担に耐えられる訳ではない。大企業は利益額過去最高とお祭り騒ぎであるが、中小零細企業はその日の運転資金にさえ事欠き社会保険を脱退する状況がある。社会福祉法人でも同様に巨額の運転資金が必要になる。当施設では運転資金は6000万円であり、法定福利費は年間2500万円である。
先進国日本が、努力が報われる人達のみの政策を追求していくならば、弱者の居場所はなくなり、社会的不安は増し、安心して暮らせることは出来ない。
社会福祉法人の使命は、弱者の居場所確保であることを肝に銘じなければならない。
平成19年10月31日 小林 直行
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