施設長の独り言

   第29話
  不況型ビジネスモデルを取り入れた入所介護保険施設の未来は如何に

   まず最初に、不況型ビジネスとは、人余りを追い風にコストを切りつめ、徹底した安売り路線で売上高を増やすビジネスのことである(朝日新聞朝刊より引用。以下4行目まで引用)。この不況型ビジネスで成功したグッドウイル、ブックオフ、外食、コンビニ業は、不況期に低賃金で大量のアルバイトを集められたことで経営コストは低水準に抑えられたことが成功の基であった。しかし、今や大量の低賃金アルバイトは集めにくくなっているのが現状である。必然的に経営コストは上昇し、利益は出にくくなっている。介護業界とて人手不足に直面し、あの手この手を使って日々の業務を遂行している。労働集約産業としての入所介護保険施設の今後について考えてみたいと思う。
 全国老施協「平成18年度収支状況等調査」によると定員51〜80人の民設民営施設で非常勤職員割合は22.5%になっていることから判断して、仮に定員60名の施設では60/2.13×22.5=6.33人の非常勤職員がいることになる(2.13とは介護等職員1人あたり利用者数)。この数値は常勤換算なので実体は更に多くなる(20時間換算で6.33×2=12.66人)。その上介護業務の委託数が上乗せされ、それは常勤換算で2.3人となり、施設では10人以上の非常勤や派遣職員(以下「非常勤職員等」という。)がいると推定される。10人以上の非常勤職員等がいるということは、正常な業務遂行に欠かせない存在になっていることである。ここで重要なことはこの非常勤職員等を誰が管理するのかということである。一定のサービスを提供するにあたって教育指導は欠かせないが、この任にあたるのは介護職の責任者であろう。データがないので正確な離職率は分からないが、昨今の人手不足を考えるとかなりの数の離職者がおり、介護の責任者は新規に雇い入れた後の教育指導のみに時間を費やされているものと推測される。同時に2人以上の非常勤職員等の欠員が生じた場合は、教育とサービス提供にとその負担は私の想像を超え判断できない。こういった負担に耐えきれずに介護の責任者の離職も多いのではないだろうか。ここまで来るとサービスの向上などに構ってる場合ではなく、如何に最低限のサービスを提供するかに頭をを使うことになるであろう。
 いつからこれほどまで非常勤職員等が多くなったのであろうか。措置の時代では殆ど全て正職員であった。それが平成12年4月から介護保険法が施行され入所介護保険施設では、介護職員+看護職員の数は入居者3人に対し常勤換算で1名以上と決められた。だから就業規則で常勤職員の週あたりの労働時間が40時間と決められていれば、非常勤職員等が2名いてそれぞれの週あたりの労働時間が20時間であればこの基準を満たすことになる。この常勤換算で1名以上という基準が出来てから非常勤職員等が増えたと推測される。おりしも平成12年(2000年)は景気後退期で、求人倍率は0.6倍超、失業率は4.5%超と非常勤職員等を集められ易い経済状況にあった。厚生省の示したこの常勤換算基準は当時の経済状況抜きには考えられないし、又護送船団方式はもう無しですよ、各法人で将来のことは考えて下さいよというメッセージであった。
 企業の真似をしたとしか言いようのない職員配置基準を示した厚労省そしてそれを鵜呑みして施設の独自性を発揮しなかった法人の責任は大きい。今行うべき事は、非常勤職員等に頼らないで正職員のみで最低限のサービスを提供出来る体勢を整えることである。何が最低限のサービスなのかそれぞれの施設で若干違いはあるだろうが、生活するのに欠かせないサービスのみに限定する必要がある。あれもこれも要求してはいけない。正職員は比較的採用しやすいし、施設の運営方針や提供するサービス方針も周知徹底しやすい。なにより非常勤職員等を管理する職員も必要なくなりバーンアウトする職員を救うことが出来る。





            
平成19年12月28日  小林 直行





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