施設長の独り言

  

 第22話 
 愛知県経済発展を探る旅と福祉経営者との交流の旅

 名古屋で開かれる全国社会福祉経営者大会に出席する為に新幹線に揺られている。高崎から東京、東京から名古屋へとは東京での乗り継ぎが良ければたったの3時間で着いてしまう。全国社会福祉経営者大会とは、特別養護老人ホームや保育園さらには障害者施設等の社会福祉施設を経営する社会福祉法人の経営者が一堂に会しその時々の問題について議論する場である。毎年1回開かれ昨年は新潟市、今年は名古屋市で開かれた。今回参加した理由は全国各地の経営者と本音で語れることともう一つ愛知の現状を知りたいことがあった。
 福祉経営者と言ってもその福祉法人の成り立ちから様々な人がいる。個人が私財をなげうって設立された法人、地域の財産を提供して設立された法人、地方公共団体の肝いりで設立された法人等によってその福祉経営者は創業者、二代目三代目、地域の代表、雇われ経営者、元公務員とその温度差は大きい。ほんの一昔前まで福祉は措置と呼ばれる行政命令に従いで運営されており、運営財源も措置費と呼ばれる行政からの100%補助金で賄われていた。経営は必要なかった。しかし、介護保険法施行を契機に老人施設はもとより今年からは障害者施設も施設と利用者との契約になり行政は運営から手を引き、社会福祉法人は経営する必要に迫られたのである。運営は勿論のこと改築も修繕もすべて法人の責任で行わなければならない。だから全国の福祉経営者との交流は大変参考になる。今回札幌、山形そして熊本の福祉経営者との話は大変得るものがあり、札幌の施設を見学する手筈までつけてしまった。皆一様に補助金の削減に危機感を募らせておりお金は貯めていかないと大変なことになる点では意見が一致した。もう一つ意見の一致を見たのは介護職員が集まらないという点である。給与を上げようにも定員が決まっているので収入の増加は見込めないしまた介護報酬が削減されている現状では如何ともし難い。ならば少しでも働きやすい環境・やりがい働きがいのある職場環境をつくっていかないとだめであるという点では議論が深まった。
 訪問したかったもう一つの理由である愛知県の経済発展の現状をこの目で確かめるにはどこが一番良いか。街の顔である県庁所在地名古屋駅前は外せない。新幹線を降りれば自然と駅前の様子は目に入る。大きなビルがいくつもありまた建築中の高層ビルもある。30年前リクルートでバイトをやっているとき名古屋に来たことがあるが、人口100万人の政令指定都市の割にはたいした街であるとは思わなかった。「尾張名古屋は城で保つ」と言われるくらいだから過去の遺産で食っているところがあったが、今は何たってトヨタ自動車である。
 名古屋駅東口に建築中のビルにはトヨタ自動車の国際営業部3000名が主に東京から異動し勤務するという。このビルはトヨタ自動車の象徴のような建物である割に長方体の地味な印象で、駅前のビルだからもっと金をかけた名古屋の象徴としての建物にしても良かったと地元の人は言っている。
「何たってトヨタが造ったんだからケチに徹したビル」と地元は納得している。
「あまりにケチに徹するので下請けは大変さ」と嘆く地元民も多い。
「しかし、トヨタ関連企業トップは腰が低く、誰にも分け隔てなく普通に接してくれるので許せるんだ。」と納得して人が多い。
          
名古屋駅前              豊田駅前                 挙母駅東口から見た工場
 ビルで働く3000名の多くが家を買うため名古屋から1時間もかからない岐阜あたりまで一戸建てやマンションが建てられ特需に沸いて、名古屋の経済効果は近隣の都市まで影響を及 ぼしている。
 ここ数年の愛知県は大規模なプロジェクトが立て続けにあった。中部国際空港(セントレア)の建築、愛地球博の開催と他県から見れば垂涎の的であった。新たな鉄道や高速道路の開通を含めれば愛知県に落とされたお金はいかほどになるのだろう。愛知県人にすれば「やるときはやるのだ」という意気込みだと思う。事実タクシー運転手によると愛知県人は質素で普段の生活は大変地味であるという。しかし、ここぞというところでは大金をそそぎ込むという。たとえば個人のレベルでは結婚式ではトラック一杯の花嫁衣装を持ってお嫁に行くという。法人のレベルでは無借金経営を貫く企業が多く投資をするにも石橋を叩いて渡るほどの細心の注意を払って決断し、決断したからにはその投資額は大きいという。
 名古屋ばかり見ていてもしょうがないのでトヨタ自動車本社工場の有る豊田市を訪れた。名古屋駅から地下鉄を1回乗り換えて40分程で名鉄豊田駅に着く。豊田市は人口42万人(合併前は35万人)の愛知県第2位の中核都市である。男性の人口が女性より2万人ほど多い、1958年までは挙母(ころも)市と言い市民の声を2分したあげく豊田市と改名したちょっと変わった市である。トヨタ自動車の創業地は刈谷市豊田町であるし、豊田グループの発祥地は名古屋市西区則武新町で豊田市からトヨタ自動車が生まれたわけではない。駅前には5階建ての立派な図書館があり東西を自由に行き来できるようになっているが人がいない。日曜日のお昼時なのに寂しい限りである。42万人の人はどこへ行ったのか。名鉄豊田駅から歩いて2分の愛知環状鉄道新豊田駅からトヨタ自動車本社工場のある挙母駅まで行く。駅東側には大きな工場がある。西側が駅前になっているが、タクシーが数台待ってはいるが運転手は手持ち無沙汰であった。名古屋とのこの差は何なのか。愛知県第2の都市のこの有様は何なのか。挙母駅から環状鉄道を経由して中央本線高蔵寺駅から名古屋へ向かうことにした。環状鉄道瀬戸駅からやっと本来の地方都市らしい落ち着いた駅の夕方近くの慌ただしさが現れてきた。乗り降りする人、老若男女それぞれ自分らしい支度で日曜の1日を過ごしていた。
 豊田駅との相違感は如何ともし難い。格差社会が問題になっている昨今、都市部と地方との格差は、地方都市の商店街がシャッター通りと言われるほど誰が見てもその格差ははっきりしているが、40万都市のここ豊田市と名古屋市の格差はどのように説明したらよいのか分からない。駅前の立派な図書館やホテルだけを見ていると名古屋駅前とさほど変わらないが、そこには住んでいる人の息がしないことが最大の違いのようである。
      
豊田市図書館             豊田駅前               挙母駅西口から見た風景



      平成18年10月30日  小林 直行

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