施設長の独り言

  

 第23話 
 フィリピン人介護労働者受け入れについて
 私見No2

 本年9月、日比経済連携協定(EPA)が阿部首相とアロヨ・フィリピン大統領との間で締結された。この協定が国会の承認を得られれば、日本開国以来初めて、一般労働市場に外国人が参入することになる。外国人に労働市場を開放する分野は看護師と介護福祉士分野のみでその数は2年間で1000人である。人の移動の自由化が不完全ながら合意された意味は大きい。締結の際アロヨ大統領は烈火のごとく怒ったというが、この理由については私見であるが後ほど述べたいと思う。外国人介護労働者を受け入れることになって、われわれ日本の介護施設関係者はどう対応すべきなのかを考えることが本稿のテーマである。
 今年の全国老人福祉施設大会における経済産業省江崎禎英氏の発表によると、日本における外国人労働者は@専門的・技術的分野で約19万人で内興行が約6万人を占めているA研修・技能実習生が約11万人B日系人が約23万人C留学生、就学生が約11万人D不法滞在者が約21万人(いずれも平成16年現在ストックベース)となっている。今回のフィリピン人介護労働者は第14話(施設長の独り言)でも述べたように@の専門的・技術的分野に該当する。というのも平成11年8月13日閣議決定において「いわゆる単純労働者の受け入れについては、(中略)十分慎重に対応することが不可欠である。」とされているので、介護労働は単純労働であるとすると受け入れる根拠が崩れることになる。専門的・技術的分野であるからこそ日本滞在期間中に日本の看護師資格や介護福祉士資格を取得する義務が生じるわけである。看護師や介護福祉士資格の両国の相互承認が得られれば資格取得をする必要が無く、もっと人の相互往来が図られるが、これは時期尚早のようである。
 さて江崎氏によると外国人労働者を受け入れて成功した国はシンガポールを除いてひとつも無いという。シンガポールは国家が外国人労働者を物として扱っているので成功しているという。日本で外国人労働者をシンガポールのように物と扱えるだろうか。先進国の一角を占める日本がそのようなことができる筈がない。しかし、現実は、物と扱う例が多い。昨年フランスで起こった暴動は先進国でさえ外国人労働者の問題は厄介であることを露呈した。日本において外国人労働者の現状はどうなっているのだろうか。上述した@では、ダンサーやシンガーなどの興行で働いているフィリピン人の待遇は専門的・技術的労働とは言い難いほどひどい。Aでは、研修技能実習とは名ばかりで安価な労働力として日本人が就きたがらない職種にあてがわれており、最近では賃金トラブル(研修・技能実習では賃金ではなく、研修手当と呼ぶという)で研修先の社長を殺傷するという事件まで起きている。Bでは、大企業を中心とする加工組立工場に請負・派遣労働者として、また建設作業や港湾労働者として多数の日系人が働いている。これらのケースでは労災保険や健康保険にも未加入のケースが多いという。Cでは、コンビニ、飲食店等のサービス業にアルバイトとして勤務しているケースが多く、時には学校へ行くよりアルバイトする時間の方が多いケースも多数あるという。留学するにあたって本国で多額の借金をして生活費までは本国からの仕送りはあてにできないという現実がある。そしてDでは、今述べた@からCまでのケースで、非合法で日本にいることを選択した外国人は、不法滞在者という弱みのため就ける労働にも限界がある。
 今述べてきたように日本で働いている外国人労働者に対する待遇は一部の例を除いて決して良くない。更に日本人が持つ外国人それも有色人種に対する偏見は大きい。このような中でフィリピン人介護労働者を受け入れるわれわれ施設側としていかなる対応をとったらよいのだろうか。江崎氏は外国人労働者問題で取り組むべき課題として二つあげている。ひとつは、必要とされる外国人労働者を適切に受入・管理できる仕組みをいかに構築するかと述べている。フィリピン介護労働者を責任持って受入れ、4年後には介護福祉士資格を取得させることに尽きると思う。責任を持って受け入れるということは、仕事が出来ないということで本国に帰国させたり、喜んで仕事をする労働環境をつくるということである。そして日本語教育を徹底し日本語で行われる介護福祉士資格取得を施設で面倒を見るということである。もう一つは外国人労働者による犯罪を誘発しない安定的な生活環境を如何に実現するかと述べている。上述したように労働者を物と扱かってはいけないということであろう。全国老施協中村会長が訴えている「同一労働同一賃金」を確実に実行しなければならない。フィリピン介護労働者を安易な労働力と見てはいけない。日本の発展のために尽くした高齢者を支える仕事をする人として認めなければならない。今述べた二つの課題はそのまま日本人労働者にもあてはまり、日本人労働者に対してきちんとした労務政策が出来ていない施設が外国人だからといって出来る訳がない。江崎氏の、失敗に終わっている各国を他山の石として外国人労働者受入を何とか成功させたい気持ちはよく分かるし、是非とも成功させて欲しい。われわれ施設側は余程の覚悟を決め事に当たり、国はきちんとした指導を行なわなければならないと思う。
 最後に協定調印の際アロヨ大統領が激怒した理由を述べて終わりにしたいと思う。今回フィリピン介護労働者を受け入れ日本で6か月間の日本語研修をAOTS及び国際交流基金が行うと義務づけられているが、この期間の生活費を誰が負担するか協定では触れられていない。たぶんフィリピン側が負担すると思われるが、フィリピン側がフィリピン介護労働者に融資して、労働者は日本で得る賃金から返済すると思われる。日本に派遣するフィリピン介護労働者が多ければ多いほど融資したフィリピン側は儲かる仕組である。それがたったの1000人という事でアロヨ大統領は激怒したと思われる。融資するフィリピン側とは誰なのかということであるが、私には分からない。国家が労働者派遣事業を行っているのだから大統領怒るのも仕方ないのか。



      平成18年12月28日  小林 直行

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